紀元前六十三年、パレスチナはローマ帝国の属領として、その支配下に組み込まれ、紀元前三十七年にはローマ皇帝アウダストウスの任命するイドマヤ出身の「半ユダヤ人」ヘロデがユダヤの王となった。
ヘロデは徹底したローマ政策を強行し、ユダヤの民衆を弾圧した。過酷な税金の取りたてと、反逆者に対する残忍な処刑のために、嘆きの声は巷にあふれ、民衆の悲しみは救い主の望みへと結晶していった。
ユダヤの王へロヂの世に、エルサレムから160キロほど北のガリラヤのナザレの村にマリヤという乙女がいた。彼女にはいいなずけのヨセフがいた。
ある夜、心の正直なヨセフとの結婚のことを考えていたマリヤは、幸せのあまりすぐに寝つけなかった。その時、突然軽いざわめきが聞こえてきたかと思うと、一瞬のうちに明るくなり主の御使いがマリヤの前に姿をあらわした。『マリヤ、恐れることはありません。あなたは身ごもって男の子を産むでしょう。その子にはイエスという名をつけなさい』
『どうしてそのようなことが起こるでしょうか、まだ私には夫がありませんのに!』
『神にはできないことはないのです』
『わたしは主にお仕えする貧しい女です。お言葉どおりに、この身に起こりますように』
すると、天使は去っていった。
数日後、マリヤはユダの町のザカリヤとエリサベツに会うためナザレを後にした。
そして、エリサぺツが男の子を生むまで、ユダの町にとどまっていた。
そのようなことがあった後、マリヤはナザレの村へ帰ってきた。
夫になるヨセフに自分の身に起きたことを打ち明けるために・・。
ある夜、マリヤからみごもっていることを打ち明けられたヨセフは眠ることができなかった。
くたくたになっているヨセフに天使があらわれた。
『ヨセフよ、案ずることはない。安心してマリヤを妻に迎えるがよい。
マリヤは聖霊によって子を宿したのです。そしてその手にイエスという名をつけなさい。』
ヨセフは天使のお告げにしたがった。
人々はヨセフとマリヤの結婚を祝った。
それから数か月が過ぎたころ全世界の住民登録をせよという勅令が皇帝アウダストウスから出た。
人々はみな登録のために、それぞれ自分の町に向かって行った。ヨセフもガリラヤの町ナザレから、ユダヤのぺツレヘムというダビデの町へ上って行った。
二人は宿を訪ねて歩いたが、彼らの泊まる場所はなかった。
羊飼いが夜を過ごす家畜小屋が彼らの泊まるところ、宿屋には彼らのいる場所がなかったからである。
『マリヤ、薪ををさがしてくるよ。こんな家畜小屋でも少しは取るく暖かくしよう。』『ヨセフ、お願いします。今夜にも赤ちゃんが生まれそうなの』『じゃ、すぐに行ってくるよ』
ヨセフが 戻ってくると、マリヤにはもうすでに男の赤ちゃんが生まれていた。
『布にくるんで、飼いば桶に寝かそう。少しは暖かくなるだろう。』
その夜、この土地に羊飼いたちが野宿をしながら、羊の番をしていた。すると、主の使いが彼らを照らした。
『恐れることはない、今、私はこの民全体のためにすばらしい喜びを知らせに釆たのです。今日ダビデの町であなたがたのために、救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです。あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶に寝ておられるみどりごを見つけます。これが、あなたがたのためのしるしです。』
その夜、天使のお告げを聞いた羊飼いたちがやって来た。
『赤ん坊を拝見させてください』
『今日あなたがたのために、救い主が生まれたりーとな。』
『まさに天使がお告げになったとおりだ。』
一週間後、ユダヤの習慣に従い、幼子は割礼を受け、イエスと名づけられた。そのころちょうど、遠いアラビアの地では星占いたちが、
『見ろよ、新しい星が生まれたぞ!』
『まさに、救い主だ!かねて計算して予想していたとおりだ!』
東方の博士たちは、星に導かれて進んで行った。
ユダヤの国へと・・・
幼子イエスを訪ねて、東方の博士たちがエルサレムに着いたとの知らせが、ヘロデ゙王の耳に届いた。
『ユダヤの王としてお生まれになった方はどこにおられますか。私たちは東の方でその方の星を見たので拝みに参りました。』
それを聞いたへロデ゙は不安になり、恐れ戸惑った。
そこで王は、民の祭司長や学者たちをみな集めて、キリストはどこに生まれるのかと問いただした。彼らは王に言った。『ユダヤのベツレヘムです。預言者によって書かれてあります。
王は博士たちに育った、『ベツレヘムへ行って、その子のことを調べてくれ!帰りには、きっとここへ立ち寄るように・・・。わしもその手を拝みたいのじゃ!』
星に導かれて博士たちは家畜小屋の中へ入ると、マリヤに抱かれた幼子を発見した。
『救い主にお捧げするようなものではございませんが、どうぞお受け下さい。』
そして博士たちは東方へ帰って行った。
『ヘロデ王の所へは立ち寄るまい・・・』
『あの男は危険だ。エルサレムを避けて、隊商の道を行くことにしよう。』
『ヨセフよ、ヘロデが幼子の命をねらっている。マリヤと一緒にエジプトの地に逃れるが良い。』
ヨセフは、天使の言葉に従い、その夜のうちに幼子とマリヤを連れて、エジプトへ逃れた。
『裏切り者目が!よくもだましたな! ベツレヘムにいる二才以下の男の子を一人残らず殺してしまえ!何をメシヤだとぬかしておるか!今に見ていろ!』
エレミヤが、かつて預言したことが目の前で起こった。
『叫び泣く悲しみの声が聞こえる。母がその子のために嘆くのである。子たちがもはやいないので、その子らのことで慰められるのを願わない。』
へロデ王は赤子の大量殺人を企てたが、ヨセフとマリヤ、そして幼子イエスは天使に守られて、エジプトへ逃れていった。
おわり